番外編7: 指先に腕の「重さ」を載せてどうするの?

公開日: 2017年11月28日火曜日 ピアノ 持論 重力奏法

こんにちは、リトピです。

近年のピアノ奏法と言われている(?)「重力奏法」(重量奏法とも呼ばれる)の間違った解釈として「指先に腕の「重さ」を載せて弾く」というものがあります。当ブログでは、その悪しき習慣・表現を払拭する活動を行っています(ぇ。

今回の記事は、そもそも「指先に腕の「重さ」を載せるって、意味あるの?」という、聞いてはいけない(?)事項にバッサリ切り込みを入れます。今回の記事は、前々回の記事「「鍵盤は50gの重さで沈む」の真実」と前回の記事「秤を使った練習に苦言」の続きみたいなものです。今回も秤を使った指導のおかしさに言及します。

指先に腕の「重さ」を載せてどうするの?

彼らがイメージしていること

「脱力」や間違った「重力奏法」を指導する人たちの練習指導にこんなものがあります。

秤に腕の「重さ」を載せるとき、指5本→指1本にすると「重さ」が変わってしまう人がいる。それって、おかしいよね。だって、両足立ち→片足立ちで「体重」(= 身体の重さ)は変わらないですから。。。これは、腕の「脱力」ができていない証拠!

イメージとしてはこんな感じでしょうか。彼らの理想は、指5本→指1本にしても、秤に表示されている「重さ」(?)が変わらない、ということ(図1)。

図1. 彼らの理想: 指5本→指1本にしても、秤が示す「重さ」が変わらない。

しかし、指5本→指1本にすると秤に表示されている「重さ」(?)が変わってしまう人がいる(図2)。彼らはこれが非常に気に入らないようです。

図2. 実際には、指5本→指1本にしたとき、秤が示す「重さ」が変わってしまう人がいる。これが彼らにとってはよろしくないらしい。。。

その気に入らない理由として、両足立ち→片足立ちで「体重」(= 身体の重さ)は変わらない、ということを挙げています(図3)。

図3. よろしくない理由は、両足立ち→片足立ちしても「体重」が変わらないから。

…ぉぃぉぃ、おかしいのはこの発言自体だ!というのは、前回の記事「秤を使った練習に苦言」で説明した通り。変わっているのは「重さ」 ではなく、秤の値(= 秤を押している【力】)ですからね。。。

ただこの発言は、もう一つ重大な問題を抱えています。それは…

> 両足立ち→片足立ちでも「体重」(= 身体の重さ)は変わらない。

…という部分。いや、もちろん、この発言内容自体はあっていますよ。地球上にいる限り「重さ」は自動的には変わらない訳ですから(当然、ダイエット・リバウンドすれば話は別ですが…w)。

問題: 変わっているのは…?

さて、ここで問題です。「両足立ち→片足立ち」では、何が変わっていると思いますか?

これがわかれば、指5本→指1本のときに、なぜ秤の値(= 秤を押す【力】)を減らす人がいるのかがわかります(しかも、それは非常に良いこと)。

両足立ち→片足立ちの場合

上記の答えは「1本の足が体重計を押し込む力(= 荷重)」と「足1本あたりにかかる負荷(= 圧力(正確には応力だが、割愛))」です。これらについては、2つの体重計に各足を載せている、というイメージをしてみると簡単に理解できます。

仮に載った人の体重を50 kgとすると…身体の重心や足を載せる角度、秤の誤差等を無視すれば、それぞれの体重計は「25 kg」を示す、というのは理解できますよね?

ここで、「おぉ、体重(身体の重さ)が25 kgに変わったね」と言う人は、さすがにいない…ですよね? 2つの体重計の合計が「50 kg」になるので、この人の体重は(残念ながら?)変わっていないです。

つまり、この「25 kg」という数字は、「載っている人の体重」ではなく、【この体重計は、1つあたり25 [kg重]の【力】で上から押されている】ということを示しています。

では、この状態で、片足立ちするとどうなるでしょうか。。。当然、その足で載っている体重計の値が「50 kg」を示しますよね。

ここで、「おぉ、体重(身体の重さ)が50 kgに戻ったね」と言う人は、さすがにいない…ですよね?上記同様、この「50 kg」という数字を【この体重計は、1つあたり50 [kg重]の【力】で上から押されている】と考えましょう(もちろん、この数値は、載っている人の体重でもあります)。

この両足立ちのときと片足立ちのときを比べると…片足立ちのときの足1本あたりの体重計を押す力、つまり足1本にかかる負荷(= 圧力)は、両足立ちのとき約2倍になります。

小まとめ: 両足立ち→片足立ちの場合

「両足立ち→片足立ち」のとき、確かに体重は変わっていませんが、その代わり、「1本の足が体重計を押し込む力(= 荷重)」と「足1本あたりにかかる負荷(= 圧力)」のそれぞれの値が2倍になっている、というわけです。だから、両足で立つよりも、片足で立つ方が大変なんです!

図4. 両足立ち→片足立ちの場合、それぞれの足が秤を押している【力】とそれぞれの足にかかる負荷について。

指5本→指1本の場合~問題提議編~

これを指の状況に応用してみましょう。

仮に、腕を秤に載せたとき、秤の値が「1 kg」だったとしましょう。つまり、このとき、腕が秤を1000 [g重]の【力】で押しているの同じです。

まず始めに、5本の指で秤に載せたときを考えます。

上記の話を基にすると、このときのそれぞれの指が秤を押す【力】(= 荷重)は、指1本あたり 200 [g重](= 1000 g重 / 5本)です。

では、この状態で、指を1本だけにするとどうなるでしょうか。。。

仮に、彼らの理想通り、腕が「脱力」したままで、秤の値が「1 kg」を指していたとしましょう(つまり、秤を押す【力】は1000 [g重]のまま)。

すると、その1本の指が秤を押す【力】(= 荷重)が、1000 [g重]になってしまいます。なんと、腕を「脱力」させたまま、指1本で腕を支えたときは、指5本の時よりも5倍も大きい【力】で、秤を押して、さらに、5倍の負荷がかかっていることに。。。

つまりこの場合、指5本で弾くとき(= 和音)と、指1本で弾くとき(= 単音)では、打鍵の際の鍵盤を押す【力】が5倍変わる + 指の負荷が5倍も増える、という結果に。。。えっ、こうやって言っている人って、同時に打鍵する量(和音数)が変わると、鍵盤を押し込む【力】が変わるってこと!?

ピアノは、5指同時に弾くときも、1本の指だけで弾くときも、両者の音量や音色を同じにしたければ、【同じ力】で各鍵盤を打鍵する必要がある…と思いませんか? そう考えると、「指5本→指1本で秤の値が変わらない」という意見の方がおかしいんです。

指5本→指1本の場合~問題解決編~

5指同時に弾くときも、1本の指だけで弾くときも、どちらも【同じ力】で打鍵するには…もう、腕を支える【力】を使うしかないです。

そうすれば、1本の指で秤や鍵盤を押す【力】を変えることができるので、過剰な力が鍵盤(や指先)にかかることなく、ピアノを弾くことができます。

小まとめ: 指5本→指1本の場合

「指5本→指1本」のとき、秤の値が変わらないということは、指1本にしたときの「1本の指が秤を押し込む力(= 荷重)」と「指1本あたりにかかる負荷(= 圧力)」のそれぞれの値が5倍になっている、という事実があります。でも、これっていいことなの…?(図5)

図5. 「指5本→指1本」の場合で、秤の値が変わらないと、指が秤を押している【力】と指にかかる負荷が5倍になる。和音と単音で打鍵力が変わるので、鍵盤を押し込む【力】が安定しないだけでなく、この大きな負荷が指のケガのリスク増大を招く。

…そんなことないですよね。5指同時に弾くときも、1本の指だけで弾くときも、ピアノの音色を同じにするには、鍵盤を押し込む【力】をどちらも同じにしたいです。そうするためには、腕を支える【力】が必要です。これで、1本の指だけで弾くときも無駄な負荷をかけずに打鍵することができます。

図6. 「指5本→指1本」の場合で、秤の値が変わると、指が秤を押している【力】と指にかかる負荷が変わらなくなる。そのため、和音も単音も【同じ力】で打鍵できる。

まとめ

今回も、間違った重力奏法によるおかしな練習内容を取り上げてみました。簡単にまとめれば「足と指は構造が違うので、同じように考えるな!」ということ。当然、片足立ちしても体重計の目盛りは変わりませんが、だからと言って、指1本にしたときも、指5本で立っているときの秤の値と変わらないようにしよう、というのはあまりにも暴論すぎる。

もし、そう言う指導者がいたら…きっと、ピアノの構造を全く考えていないんだろうなぁ。。。

もし、そういう指導者の下でピアノのレッスンを受けている人がいるのであれば、彼らの「言っていること」は話半分に流しておいて、彼らの【やっていること】は何か?を見極めるようにしましょう。たとえ「言っていること」がハチャメチャでも、【やっていること】に注目していれば、彼らから学べることはたくさんあるでしょう。本当は、彼らの「言っていること」も正してほしいですけど。。。

では。

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