番外編8: ピアノは歩くようには弾けない

公開日: 2017年11月29日水曜日 ピアノ 持論 重力奏法 脱力

こんにちは、リトピです。

ピアノの弾き方でよく言われるアドバイスに「歩くように弾きなさい!」や「腕の重心移動で弾きなさい」、「腕の「重み」を弾く指に載せかえる」などというものがあります。「重心」や「重み」の実際の扱い方に関しては、記事「お悩み相談室15: 重心を下げたいのですが…」や「「鍵盤は50gの重さで沈む」の真実」を読んでいただければと思いますが、本当にそのような方法でピアノは弾くことができるのでしょうか?

前回の記事「指先に腕の「重さ」を載せてどうするの?」に引き続き、今回も「重力奏法」(重量奏法とも呼ばれる)の間違った解釈を払拭する活動のための記事です。今回も秤を使った指導のおかしさに言及します。

「歩く」と「弾く」は別物

彼らがイメージしていることはピアノ演奏にそぐわない

「歩くように弾きなさい!」や「腕の重心移動で弾きなさい」、「腕の「重み」を弾く指に載せかえる」と言っている人たちは、恐らくこういうイメージでピアノを弾きなさいと言っているのでしょう(図1)。

図1. 歩くように弾く…と考えたときのイメージ。歩きながら前の足側に重心が寄り、体重が載るように、ピアノを弾くときも手・腕の重心を次に弾く指に寄せ、腕の「重さ」を載せる。。。

仮に、こうやってピアノを演奏できた場合、どうなるか考えてみましょう。

歩く場合

まず、歩く場合はどうなるか考えてみましょう。後ろ足は、前足が地に着いてから、正確には、前足で地面を踏み込まないと上げられませんよね。「前足側に重心が寄り、体重が載り、後ろ足を前に出して、その体重をその足に載せかえる」という歩き方では、常に両足が地面についている時間というものが存在します。

歩く動作をピアノに応用した場合

歩く動作をピアノに応用すると…こうなります。

腕の「重さ」が載った前の指は、次の指で打鍵した後、正確には、次の指で「底を突いた(もうこれ以上は下がらない)鍵盤」に圧をかけないと(腕の「重さ」をそちらに移し替えないと)上げられませんよね。そのような歩く動作を応用した弾き方では、常に両方の指が鍵盤を押し込んでいる時間というものが存在します。

「常に両方の指が鍵盤を押し込んでいる時間」が存在しているということは…音が移り変わるたびに、毎回その2つの音が混じった状態になります(図2)。常に濁った音を出す…というのは、音楽的にどうなの?と私は思うのですが。。。

図2. 歩くように弾く…と考えたときの実際。重心を移動させるには(後ろの足・前の指を持ち上げるには)、次の足・次の指が地面・底を突いた鍵盤をグッと踏み込む必要があるので、こうなる。ピアノの場合は当然、音が濁る。。。

実際のピアノ演奏

えっ、腕の「重さ」をかけながらも、打鍵中に前の指を上げることが可能だって? 残念ながら、下降中の鍵盤には、腕の「重さ」は載せられないので(詳細は記事「「鍵盤は50gの重さで沈む」の真実」を参照)、次の指に腕の「重さ」が載せられない打鍵中に、前の指を上げるというのは、「腕の「重さ」を載せて弾け」というのを言われた通りに実行しようとする限り、不可能です。

これが理解できない人は、「スポンジを踏みつけるとき、スポンジを踏みつけ終わる前に反対の足を上げられるか?」というのをやってみてください。反対の足は、スポンジを踏みつけ終わった後、その足で地面(+ つぶれたスポンジ)を踏み込まない限り、絶対に上げられません。

図3. 「腕の「重み」を弾く指に乗せかえる」という弾き方は…歩くとき、前足が地面(+ つぶれたスポンジ)をグッと踏み込まない限り、後ろ足を絶対に持ち上げられないのと同じように、次の指が底を突いた(これ以上下がらない)鍵盤をグッと押し込まない限り、前の指を持ち上げることは絶対にできない。それ、ピアノの弾き方として適切ですか?

これを「スポンジを踏みつけ終わる前に、反対の足は上げられる!」と言っている人は、反対の足で地面を蹴り上げて(軽くジャンプ)しています。そもそも、その動作は、重心移動をさせる「歩く」動作から離れていますが…それってピアノでも同じこと(前の指で底を突いた鍵盤を蹴り上げる行為)できます?

もし、ピアノで、「次の指で打鍵中に、前の指を上げたい」のであれば、手を【支える】しかないです。手さえしっかり支えられていれば、「次の指で打鍵中に、前の指を上げる」なんてのはたやすいです(図4)。そもそも、ピアノは、腕の「重さ」を鍵盤に載せて弾く楽器ではないので、「歩くように弾きなさい!」や「腕の重心移動で弾きなさい」、「腕の「重み」を弾く指に載せかえる」などという考え方自体が間違っています。

図4. 「次の指で打鍵中に、前の指を上げたい」のであれば、手を【支える】だけでよい。これなら、音も濁らず、ピアノを弾くことができる。そもそも、「歩くように弾きなさい!」などという考え自体が間違っている。

よくある間違い例

さて、ピアノを弾くには、手を支えるという【必要な力】が大事だというのが、改めて分かったところで、「歩くように弾きなさい!」や「腕の重心移動で弾きなさい」、「腕の「重み」を弾く指に載せかえる」という考えによる間違った練習方法の例をこれから示します。もしかしたら、みなさんもそんな練習方法を耳にしたことがあるかもしれません。

レガートは歩くように弾く!?

これ、よく言われることだと思いますが…ピアノは歩くようには弾けない、というのは上記で説明した通りですね。ただ、この考えがエスカレートすると、こういうことを言い出す人達がいます。

「レガート奏法は、指を変えるとき秤の値が変わらない!!」

でたw、秤を使った練習!!イメージとしてはこんな感じ?(図5)

図5. レガート奏法は、秤の値が変わらない(= 弾く指に腕の「重み」が載り続けた)弾き方が大事…?

これは「腕の「重み」を弾く指に載せかえる」の派生とも読み取れますね。さて、この内容が如何に滑稽かを次で示します。

レガート奏法: 秤を使った練習の場合

指を変えても秤の値が一定ということは、少なくとも以下の2つが成立していないといけません。

  • 打鍵後も指・鍵盤には腕の「重さ」が載っている
    → つまり、鍵盤をずーっと押し続けている
  • 前の指は、次の指に腕の「重さ」が載るまで、上げることができない
    → つまり、前の音と次の音が重なる

これを、図解すると、以下のようになるでしょう(図6)。こうやって弾いて、秤の値を同じにすることに何の意味があるのでしょうか…?

図6. 秤の値が変わらないように弾こうとするとこうなる。こうやって弾く意味っていったい。。。

レガート奏法: 実際の場合

そもそも、レガートというのは…

連続する2つの音(通常音の高さは異なる)を途切れさせずに滑らかに続けて演奏すること
by wikipedia
…です。決して「秤の値を変えないこと」ではないですし、「次の指の打鍵が終わってから前の指を上げること」でもないです。秤を使って、「秤の値を変えないこと」に躍起になっても、それは残念ながらレガートの練習ではありません。強いて言うなら、それは「秤を使った遊び」でしょう。そんなのピアノの練習ではありません。

レガートは「連続する2つの音を途切れさせずに滑らかに続けて演奏する」だけでいいので、1つの音の打鍵後に鍵盤が戻らず音が伸びて、かつ、次の音が鳴るタイミングでその音を消せば十分。「秤の値を変えないように」と必要以上に鍵盤を押し続ける必要なんて全くありません(図7)。

図7. 実際のレガート奏法のイメージ。別に「秤の値を変えないこと」に執着する必要なんてないです。つまり…別に「秤の値が毎回 "ゼロ"」になってもいいし、「重さがずっとかかって」いなくてもいい。レガートなんだから「連続する2つの音を途切れさせずに滑らかに続けて演奏」できていれば、それでOK。

そもそも…当ブログで何度も説明していますが、プロは、打鍵後に鍵盤を押す【力】を弱めて、指への負担を減らしています(参考: ピアニストのための脳と身体の教科書: 第10回 「力み」を正しく理解する (4)エコ・プレイ:力まずに弾くスキル(1))。だから、ピアノを弾く動作を秤の上でしたときに、秤の値が揺れる(毎回 "ゼロ"になる)のは当然。そうやって弾くためには、手の【支え】を考えることが重要なんです。

そんなプロの弾き方に逆行して、秤の値を一定にしようと、腕を「脱力」させ(腕の【支え】を捨てて)、指に腕の「重さ」をずーっと載せ続けることに何の意味があるのだろうか。。。そんな弾き方は、指に大きな負担を与え続けることになるので、いつかケガします。絶対にやめましょう。

秤の値が揺れてると音量は安定しない!?

今回の話とはちょっと違いますが、秤を使って練習することを推奨している人の中にはこう言っている人もいるので、ここで紹介します。イメージとしてはこんな感じ?(図8)

図8. 1つの指を秤に載せたとき、秤の値が一定でないと、音量が安定しない…?

まず、一言言わせてほしい。

「お前のピアノはシンセサイザーか?」

前の記事「秤を使った練習に苦言」で説明したように、秤の値が読み取れるのは1秒以上後、つまり、打鍵後です。

その打鍵後(厳密にはハンマーが飛び出された後)は、いくら鍵盤を押し込んでもピアノ音には何も影響を及ぼさないので、秤の値が揺れているかどうかの判断(打鍵後にどれだけの【力】で鍵盤を押し込んでいるかの情報)と音量が安定するかという話に、関係性はないです(図9)。確かに、打鍵後に鍵盤を押し込んでいる【力】が安定していないのも問題ですが、それは別のお話。。。

図9. ピアノの音量は、ハンマーが飛び出るときのスピードで決まる。底を突いた後の鍵盤を押し込む【力】で変わるわけではない。

まとめ

今回は、「歩く」動作と「弾く」動作がどれだけ異なっているか?という話から、ピアノはどうやって弾くのがいいか、ということを解説しました。簡単に言えば「歩くようにピアノは弾けない」ということでした。

ピアノを弾くときに必要は「次の指で打鍵中に、前の指の離鍵する」という演奏技術は、「腕の重心移動で弾く」や「腕の「重み」を弾く指に載せかえて弾く」というイメージを持っていたら、絶対に行うことができません。重要なのは、手を【支える】ことです。この手の【支え】(つまり【必要な力】)をどのように扱うか?というのがピアノを弾く上で重要なポイントとなってきます。

みなさんは、このような秤を使った練習に惑わされないよう、十分気をつけながら練習をしてくださいね。

では。

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    1. You're welcome. Thank you for reading my blog!

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