新ピアノ奏法2: 鍵盤が重いと感じる理由とその改善案1

公開日: 2015年12月2日水曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

鍵盤が動かすために必要な力は、45 gの重りを持ち上げるときと同じ力(約0.44 N)が必要だと言われています(参考『楽器の物理学』, 丸善出版(株))。でも、なぜ、ピアノを弾いたときに「あれ?鍵盤が重たい!」と感じることがあるのでしょうか。今回はその疑問について、私が新たに考案した「インピーダンスマッチング」奏法の理論に基づき、考察してみます。

新奏法の理論から鍵盤の重さの理由をひも解く

鍵盤が重いと感じる理由は、単に鍵盤が【重い】だけ?

この【重い】から連想されるイメージは「物理的に鍵盤の質量が大きい」ということでしょう(実際は、鍵盤の慣性モーメントが大きい)。 ここで、ピアノの調律・修理などをしている会社のサイト、うたまくらピアノ工房によると、現在のピアノの鍵盤の重さは、ほぼ50 g前後とのこと。昔は鍵盤の重さが100 gのピアノもあったようですね。これは現在のピアノの鍵盤の重さの2倍!ひゃー、重たいですねー

…ん?…いや…なんかおかしいぞ。だって、よーく考えてみてください。体重が50 kgの人は、片腕の重さが3 kgくらいありますから(詳細は、記事「なぜ「脱力」は敵なのか5: 身体は鍛えるな。感覚を鍛えろ。」を参照)、人間側から見れば、鍵盤の重さ50 gは片腕の重さの1.67%、鍵盤の重さが2倍の100 gになったって、それは片腕の重さのたった3.33%です。これでは、鍵盤が重いと感じるほどの理由にはならないでしょう。

他の視点からも見てみましょう。ポケットティッシュ1袋の重さは大体10 gです(参考: Nittosha)。 つまり、現在の鍵盤の重さは、ポケットティッシュ5袋分、そして、昔のピアノでも、その鍵盤の重さは、たったのポケットティッシュ10袋分。うーん、これは軽い部類に入るんじゃないか?だって、ポケットティッシュ10袋分なんて指一本でも簡単に持ち上がるでしょ?

さて、これは鍵盤の重さ(質量、もとい慣性モーメントの大きさ)が単に重いだけで、「あれ?鍵盤が重たい!」と本気で感じられるものなのでしょうか?ポケットティッシュ10袋分で「重たい!」と感じる人がいたらごめんなさいっ!!(ここの議論は、次の記事「新ピアノ奏法3: 鍵盤が重いと感じる理由とその改善案2」でもお話しします。)

問題は、単純に鍵盤の【重さ】ではないのかも?

ここで登場するのが「インピーダンスマッチング」という考え方。ピアノを打鍵するときの状況(図1)を見てみましょう。

図1. ピアノを打鍵したときのエネルギーの移動
打鍵時のエネルギー(鍵盤を動かそうとする力)が鍵盤にすべて伝達されなかった場合、余ったエネルギーは反射してきます。図1の赤い矢印である反射したエネルギーが身体に伝わり、「鍵盤の重さ」として、我々は感じ取っているのでは?と推測しています。

このままではなかなか「インピーダンスマッチング」の理論に応用しにくいので、以下の図2のようにします。破線の左側が人間の手・腕部分、破線の右側が鍵盤部分です。電力は打鍵時に鍵盤に伝えようとしているエネルギーとして見てください。

図2. 図1のイメージを回路図に置き換え
打鍵時のエネルギーの人間の手(運動インピーダンス: Zh)からピアノの鍵盤(機械インピーダンス: Zm)に移る過程を、この回路のエネルギー(電力)の伝送具合や反射度合に見立て、考えていきたいと思います。(ここでは、わかりやすくするため、各インピーダンスの詳細は割愛します。詳細は、次の記事「新ピアノ奏法3: 鍵盤が重いと感じる理由とその改善案2」をどうぞ。)

図2の回路のエネルギーの反射率は以下のようになっています。

打鍵力(電圧)反射率:
エネルギー(電力)反射率:
このエネルギー反射率の値が0に近いほど、反射のエネルギーがなく、スムーズに負荷にエネルギーを伝えられます。 エネルギー反射率が0になるには、以下の条件が必要です。
Zh = Zm

これを「インピーダンスマッチング」と呼びます。

大事なのは「インピーダンスマッチング」

ここでは、完全に人間の手・腕と鍵盤とのインピーダンスマッチングができると仮定し、打鍵時のエネルギー反射量が、打鍵時の人間の手の運動インピーダンス: Zhを変化させたときどうなるかを見てみましょう(図3)。

図3. 打鍵時の人間の手の運動インピーダンスを変化させた場合のエネルギー反射率(インピーダンスマッチングができると仮定)
図2のグラフの各部について一つずつ見てみましょう。(横軸は単なる打鍵の強さを示しているわけではないですが、今回は簡易的にそう考えてみましょう。)
  1. 鍵盤の重さを感じられるエリア。まだちょっと打鍵力が弱い。
  2. 鍵盤が軽いと感じるポイント(インピーダンスマッチング)
  3. 打鍵が強すぎるエリア。ピアノの音が悪くなる。
まだ、定かではないですが…この(3)のエリアでも、もちろん打鍵時にエネルギーの反射が起こる。しかし、身体の力の入れ方が変わっているので、(1)のエリアとは違う鍵盤が重さを感じる。重いと感じたため、もっと打鍵に力を入れたとしてもも、反射の度合いが大きくなるだけ。さらには、与えたエネルギーは反射するだけにとどまらず、上部雑音や下部雑音の発生にも使われてしまうのかも。よって、音がどんどん汚くなってしまう。

そして、図3の(2)のポイント、これが「インピーダンスマッチング」した状態であり、図2の回路で反射が起きない条件です。 この条件が合致しているとき、ピアノでいう「あれ?鍵盤が重たい!」という感覚がない状態であり、ピアノからはきれいな音が出て、かつ、(反射が起きないため)ピアノ演奏が「楽だ」と感じるはず。

この図3の(3)のエリアから(2)のポイントに移らせるためのアドバイスとして「脱力」という言葉が使われているのかも?そうとすると、本当のアドバイスは「脱力」ではなく、「鍵盤との【インピーダンス】を合わせろ!」(= 「インピーダンスマッチング」)ということになりますね。「脱力」よりも的確なアドバイスだと思うんだけど、絶対流行らないだろうなぁ…

他のピアノを弾いたとき、重いと感じるのはなぜか

自分のピアノでずっと(正しい身体の使い方で)練習を続けていれば、いつの間にか自分とピアノの「インピーダンスマッチング」が取れてくるので、段々弾きやすくなってくるはずです。では、他のピアノを弾いたとき、「あれ?鍵盤が重たい!」と感じるのは…そうです、今度は他のピアノとの「インピーダンスマッチング」が取れていないからなんです。

そういえば、うたまくらピアノ工房で、

個性の違うまったく同じ重さの2台のピアノを弾いていただきました。面白いことに音色によって、タッチによって重さの感じ方が違います。
と書かれていましたが、もしかしてそれは、タッチによって人間の運動インピーダンスが変わり、鍵盤の重さの感じ方が変わったのでは?

他のピアノを弾いたとき、「あれ?鍵盤が重たい!」と感じるのは、単に鍵盤の重さが重くなっているから、という理由ではないのは、上記のポケットティッシュの話で納得していただけたかと思います。 この問題は、鍵盤の重さが重くなったとき、人間の身体とピアノの間で(インピーダンスマッチングの関係が)どう変化しているのか、ということです。これを知ることができれば、「あれ?鍵盤が重たい!」というピアノでも、軽々弾けるようになるのでは?と考えています。

どうやったらインピーダンスマッチングできるの?などの詳細は、次の記事「新ピアノ奏法3: 鍵盤が重いと感じる理由とその改善案2」で。

では。

  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A

0 件のコメント :

コメントを投稿