なぜ「脱力」は敵なのか5: 身体は鍛えるな。感覚を鍛えろ。

公開日: 2015年10月5日月曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

前回の記事「脱力なんていらない」では、我々が「脱力」しなきゃいけないと思っていたものは…

  1. × 余分な力
  2. ○ 正しい動作ができていないせいで身体にかかる負荷に対抗しようとして支えている、もしくは動かしている力
と考え、「その負荷に対抗する力が発生= 間違った身体の使い方をしているという警告」ととらえることが大事、というお話をしました。

さて、その警告を無視、つまり、負荷に対抗する力を鍛えてしまうとどうなるのでしょうか。 記事「余分な力はなぜ発生するのか」では、

命題: ひざを曲げずに歩く

かなり歩きにくいはずです。まともに歩けるようにするためのアドバイスとして…

  1. 別回答: いや、太ももが痛くなってしまうのはそこが弱いから。つまり、まだ「脱力」以前の問題。まずは太ももが痛くならないように、そこを鍛えることから始めよう!
という回答、そこを鍛えたからと言ってまともに歩けるわけがないのは、もちろん明白ですよね、というお話をその記事でいたしました。 そんなところ鍛えずに、まずはひざを曲げて歩いてくれ、と。 ちなみに、ここで、歩きにくいという感覚や太ももが痛くなる現象が、上記でお話しした警告なわけです。

でも、そういった警告を無視し、上記の別回答のようなことを行う方々も実際にいるんです、なぜかピアノの世界では。。。

ピアノが弾けない、指が思うように動かない、「脱力」ができない、という方々の中で…

  • 指に重りをつけて指を鍛えようとする方
    (今時、わざわざシューマンの二の舞を演じますか?)
  • 指立てふせをし、指を強固にさせようとする方
    (スーパーサ○ヤ人にでもなりたいのかな?)
  • なぜか握力を鍛えようとする方
    (まさかスネークバ○ト使いにでも!?)

まさに、上記別回答を実践していますよね。正直、私も「脱力」にとらわれていたころは実践してましたが←

と、いうわけで、そのような警告を無視し、指を鍛える、という選択をした場合、どういう結果になるか考えてみましょう。

もし、完全なる「脱力」が、指を鍛えるという行為で実現できたとするならば、その指はどれだけの力に耐えられなければならないのでしょうか。 腕全体の質量を支えられるくらい強靭な指になればよい、と仮定してみましょう。

腕全体の質力は、"総論 身体測定の方法," 望月弘彦, 日本静脈経腸栄養学会雑誌によると、身体の一部を切断や欠損している場合の理想体重などの算出をする際、総体重に対する身体各部位の割合(%体重)を用いて補正できる、とのことです。

身体各部位の割合(%体重)
頭部: 7%
胴体: 43%
上肢: 6.5%(上腕: 3.5%、前腕: 2.3%、掌・手指: 0.8%)
下肢: 18.5%(大腿: 11.6%、下腿: 5.3%、足部: 1.8%)
これより、片腕全体は6.5%なので、例えば、体重が50 kgなら、腕全体は3.25 kgです。これは、子供用のボーリング 7 ポンド (3.17 kg)とほぼ同じ。図1のようになりますね。
(実際には、肩やひじの関節があるので、単純な並進運動ではなく、回転運動、すなわち、慣性モーメントを考えなければならないのですが、ここでは簡略化します。)
図1: 完全なる「脱力」をした場合、赤丸で囲まれた1本の指先にどれだけの力が加わるか。
...そんなの、何も考えずに指で支えようとしたら、普通に考えて指折れちゃいますよね。。。
で、そうならないように、「脱力」信者は、その重さに指だけで耐えられるように、各指にボーリングの玉をぶら下げて、指を楽々上げ下げできるようになるまでトレーニングを続けるわけですか。。。うーん、るろ剣の外印なら余裕で可能か。

私は、指に力がかかったとき、みなさんが「脱力」で取り除こうと考えていた指や手首、腕周りに感じていた抵抗力は、指だけで腕の重さを支えようとしたとき、身体が指を守るために、無意識に使っている力 (主要な力が意識的に抜けてるせいで無理やり使わざるをえなくなった力)だと考えています。 それ、「脱力」しなければいけない余分な力ですかねぇ?もしくは、指を鍛えまくって、その感覚をなくしたいですかねぇ? むしろ、その感じている抵抗力を警告ととらえ、正しい動作になるよう (抵抗力を感じなくなるよう)にすべきだと思いませんか?

ちなみに、足・ひざ周りと違って、指自体には(足のように全体を覆う)筋肉がありません。 なので、指を鍛える、ということ自体がナンセンスです。鍛えたところで足みたいに (筋肉で)太くならないので、残念ながらどんなに頑張っても腕全体を支えられるだけの筋力やパワーは得られないです。 指を動かす筋肉は掌の中と前腕の中にありますが、メインは前腕の中の方で、グーを作るときは腕の内側 (手のひら側)、パーを作るときは腕の外側 (手の甲側)の筋肉が収縮します。 ここら辺の詳細はまたのちほど。

次の記事「打鍵後の脱力はダメ」では、これまでの総まとめをしつつ、ちょっとだけピアノと絡めます。

では。

P.S.
恐らくですが、ピアニストは握力が強い、というのは、ピアノが上手になるための過程じゃなくて、ピアノを弾き続けた結果だと思います。 筋力・握力があることと、ピアノが弾けることは別物ですから。

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6 件のコメント :

  1. 初めて訪問しましたが、とても面白いです!!

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    1. 初めてのご訪問 & コメントありがとうございます!面白い記事をこれからも書ければ、と思っております

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  2. ピアノは知らないけど、内容がおかしい。
    腕が3kgでも全てが指に乗る訳ではない。
    上腕は肩に吊るされているし、その先の
    重量も指先にかかるのは半分では?

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    1. おっしゃる通り。まぁ、それが普通の(一般教養を持った人の)反応ですよね。。。

      でも、残念ながら(?)、ピアノをやっている人は、なぜかそれがわかっていない人が多いです。

      実際、「秤に腕の「重さ」を全部載せると1 kgくらいだ(この時点で言っていることがすでにおかしい)。大きな音量を出すときは、その重さすべてを鍵盤に載せよう」、などと言う人がいたり…
      例: http://www.muratapiano.com/technique/weght-playing3.html

      > 上腕は肩に吊るされているし
      その肩の吊るし(支え)を外せ、と言っている教本もあったりします(つまり、本当にすべての腕の「重さ」を鍵盤に落とせ、と言っている。物理的に無理だろ…)。
      例: http://lppianolife.blogspot.jp/2015/11/1-1.html

      この記事でのポイントは、ピアノの指導でよく言われている内容をそのまま受け取るとどうなるのか? ということ。そして……そういう「ピアノの指導でよく言われている内容」っておかしいでしょう? だから考えを改めましょうよ。……というのが、この記事の主旨です(なので、内容がおかしい、と感じるのは正しい)。


      ただ気になる点が一つ。
      > その先の重量も指先にかかるのは半分では?
      なぜ、「半分」と言い切れるのでしょう?

      いや、そもそも…残念ながら(?)、肩から先の腕全体の「重量」は、上腕が肩に吊るされていようが、(地球上にいる限り)常に一定です(それが「重量」の定義)。変動するのは、指先にかかる【力】です。そして、この指先にかかる【力】は、腕の吊るされ具合(支え具合)で変わります(つまり、変わっているのは腕の「重量」ではない。詳細はこれ以降の記事で)。

      では…そういう背景がありながらも「この指先にかかる【力】は、腕全体の「重量」の「半分」の大きさになる」と言い切れるのはなぜなのでしょう? もしお時間があればご教示いただければ幸いです。

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    2. 単純化してますが
      上腕は肩から垂直に下がっているので重量は無視して、
      肘から指先までの重量(勿論、一定)が
      肘と指先に分散されて支えられると考えました。

      なので、「その先」と書いてあるのは
      「上腕を除いた肘から先」という事です。
      腕全体の半分ではないです。

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    3. なるほど、そのご説明なら、アナタ様のご主張は理解できます。補足ありがとうございます。

      ただ…当ブログはピアノ関連なのでちょっとだけ補足。
      > 上腕は肩から垂直に下がっているので
      実際のピアノの基本的なフォームはちょっと違います。上腕は、肩から若干前方に出ているので、もし、腕を完全に「脱力」させた場合は、その重量も無視できません(とはいえ、アナタ様のおっしゃられている通り、それでも上腕すべての重量が指にのしかかることはない)。
      例: http://sakipiano.com/tadasiisisei/


      あともう一つ。
      > 肘と指先に分散されて支えられると考えました。
      いいですね。実は私自身も、ここで大事なのは【支え】だ、と他の記事で触れています。でも悲しいことに……アナタ様のような(ごく一般的な)考え方は、大半のピアノ弾きには難しいみたいなんです。。。

      そのため、当記事のように「ピアノでよく言われていることって、一般的に(一般教養レベルで)考えたらおかしいだろ? だから、みんなで一緒に考え方を改めようぜ!」という記事を、あえて誇張する形で書かせていただいております。


      ……なので、一般人から見たら「内容がおかしい」と思うのは当然ですよね。ご指摘ありがとうございました。

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