なぜ「脱力」は敵なのか6: まとめ ~打鍵後の「脱力」はダメ~

公開日: 2015年10月6日火曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

ここでは、「なぜ「脱力」は敵なのか」の総まとめと、今回の内容をピアノにちょっとだけ応用してみたいと思います。

「なぜ脱力は敵なのか」総まとめ

1. 敵である理由
第一、言葉の印象が良くない。
第二、「脱力」という言葉だけでは、どう演奏すればいいかわからない。
第三、演奏する際に必要不可欠な支えがある、ということが意識しにくい。
2. 脱力 (余分な力を抜く) は間違い
「脱力」という「余分な力を抜く」行為は、「動作する = 力を入れて行う」という本来のイメージからかけ離れすぎている。 動作そのものにフォーカスすべき。
3. 余分な力はなぜ発生するのか
ここでは「脱力」信者への問題提議。
4. 脱力なんていらない
正しい動作ができていないせいで身体にかかる「負荷に対抗する力が発生= 間違った身体の使い方をしているという警告」ととらえることが大事。
5. 身体は鍛えるな。感覚を鍛えろ。
完全に「脱力」した腕を指だけで支えようとすると、人間をやめることに。。。 感じている抵抗力を警告ととらえ、正しい動作になるよう (抵抗力を感じなくなるよう)にすべき。

打鍵後の脱力はダメ

さて、これらまとめをピアノにちょっと絡めてみましょう。 ピアノ演奏で最も動作が少ないであろう打鍵後について考察です。

図1: 打鍵後の姿勢。図中に書かれているFは何でしょう?
打鍵後、打鍵方向 (鍵盤下向き)に力を入れても意味がないことはピアノの構造からみれば明白です。 打鍵時、ピアノの弦を打つハンマーが投げ出された後は、いくら鍵盤に力を入れても意味がないですから。 ここまでは「脱力」信者も納得でしょう。彼らもその力を抜け、と言っているくらいですから。 でも、なぜそれを理解できていても、「脱力」ではうまくいかないのか。

ところで、地球上にいる限り、我々、いや地球上にあるすべての質量を持つ物体は、ある現象のせいである方向に引っ張られ続けているのをご存知ですか?

そう、重力です。 (地球での重力加速度: g = 9.8 m/s2)

恐らく、「脱力」信者にとって衝撃的なこと、残念なことは、この重力のベクトルが図1のFの向きである打鍵方向 (鍵盤下向き)に向いていることでしょうね。

体重50 kgの人の片腕全体の質量を約m = 3.25 kg (前の記事「身体を鍛えるな。感覚を鍛えろ。」を参照)とすると、まったく支えがなかった (上向きの力を一切加えない) 場合、打鍵方向にかかる力Fは以下のようになります。

  1. F = mg = 31.85 N
「脱力」をしつつ、この打鍵方向の力Fを取り去るには、mは痩せる以外に減らせない上に、小さくするにも限界があります。このFを本当に最小にするには、gを変更するしかありません。
「脱力」信者は、いとも簡単に重力までもゆがめてしまうのでしょうか。。。

くっ、こんなに頑張って考察したのに、我々凡人のピアノ人生は所詮ここまでなのか…

幸いにも我々凡人は、重力を自在に変化させることができない代わりに、重力のかかる方向とは反対の力をかけて、いとも簡単に腕を上げることができる構造になっています。 と、いうわけで、我々凡人は以下の式を使い、容易に打鍵方向の力Fを取り払いましょう。

  1. F = mg - F’ (F’: 腕全体を持ち上げようとする力)
打鍵後の力FはF’を変えるだけで、鍵盤にかかる力を簡単に制御することができます。 しかも、その制御は、自分の腕を上げられるだけの力があれば十分なので、鍛える必要もまったくありません。

図2: 打鍵後の姿勢に各力の方向を入れた。
力の方向の色は、同じ色で示した筋肉によって生み出される力。

肩側の筋肉で腕全体を支えているのですが、ちょっと分解してみましょう。 手首から先の掌・指 (体重50 kgなら400 g)は、掌を上に持ち上げる筋肉 (短・長橈側手根伸筋)[図2: 緑色の線] )で手首から先を落とさないように支え、前腕 (体重50 kgなら1.15 kg) + 手首から先 (400 g)持ち上げる筋肉 (上腕二頭筋)[図2: 赤色の線]で、重力に引っ張られている力とほぼ同等の力 (打鍵方向とは逆向き)が出る分だけ収縮させれば支えられます。 (各数値は前の記事「身体を鍛えるな。感覚を鍛えろ。」を参照) 本来は、その手前の肩からひじまでの上腕 (体重50 kgなら1.75 kg) + 前腕 (1.15 kg) + 手首から先 (400 g)が、重力によって落とされないよう、肩側の筋肉 (三頭筋前部)で支えるのですが、今回は簡略化のため割愛します。

なお、ほぼ同等の力で、とお話ししましたが、鍵盤のキーを押し下げるのに必要な力は約0.48 - 0.488 N (『楽器の物理学』, 丸善出版(株), p.361参照)、つまり、たった約50 gを持ち上げる力と同等です。その力だけは打鍵方向へかけておくこと。 ただし、腕全体の質量が約3 kgということは、その50 g は腕全体の質量のうちの1.67 %なので、ほとんど考慮する必要はないでしょう。

これ、試してみてください。今まで、「脱力」すべき余分な力と勘違いしていた指や手首、前腕周りにかかっていた不快な負荷が完全になくなるはずです。 強い上腕の筋肉を使って弱い前腕を支える。これがシャンドール氏の言う、筋肉の「コーディネート」です。

どうでしょう?「脱力」という言葉よりも単純かつ明確で、比較的簡単に実践できる内容になっていると思いませんか? だって、今回、打鍵後で意識したのは、「脱力」という意味不明な言葉ではなく、筋肉の「コーディネート」のメインとして上腕の筋肉(上腕二頭筋)を、重力に引っ張られる力に対抗できる分だけ収縮させ、腕全体を支えるという正しい動作ですから。 (短・長橈側手根伸筋は、手首から先を落とさないように少し収縮させるだけ。) ぜひ、みなさんも「脱力」をピアノ練習の敵と考え、脱「脱力」してみませんか?

以下、ピアノの打鍵後に関するまとめです。 打鍵後、打鍵方向に力をいれる意味はない、というのは明白。 重力があるため、「脱力」すればするほど打鍵方向に力が入る。そのため…

  1. ×「脱力」したままの打鍵 (地球上にいる限り、物理的に不可能)
  2. ×「脱力」実現のために指を鍛える (人間の構造上、不可能)
          (ただし、るろ剣の外印並みの能力なら可)
  3. ○「コーディネート」を考え、主に上腕の筋肉を使い、重力に引っ張られている前腕を支える。
          (本当は、腕全体を支える三頭筋前部という筋肉がメインで必要になるのですが、今回は簡略化します。)

今後は、「脱力」ではなく、この「コーディネート」という言葉を使って、ピアノ持論を展開していきたいと思います。

では。

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2 件のコメント :

  1. 脱力という抽象的な概念を具体的に説明したかのように思わせてこれは論点ずらしですね。
    重力の計算をしてますが、ロジカルに見えてまったくそうではない。

    なぜ、「脱力=支えがない」という解釈なのでしょうか?前提としておかしな話です。
    重力を歪める云々の前に、支えのない脱力という物理的に有り得ない前提で話を進めてるのらおかしいですよね?(笑)
    具体的な数字を出して論理的に説明してるかと思いきや、存在しない数字を例に話を進めていてびっくりしました。

    身体のコーディネートが大事という点以外、賛同点はありません。
    あなたのような論点ずらしの解説者がいなくなることを願います。

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    1. コメントありがとうございます。

      > なぜ、「脱力=支えがない」という解釈なのでしょうか?前提としておかしな話です。
      えっと…逆に、「脱力 = 支えがある」という解釈の方がおかしいと思いますが。。。腕の「支え」って「力を抜く」と得られるものなんですか?そいつはニュートンもビックリですね。

      これは「脱力」の意味を調べていただければと思いますが…そうでなくても、例えば「日本初の脱力奏法を総合的に解説したガイドブック」と言われる書籍『ピアノ脱力奏法ガイドブック 1』をお読みいただければ、この前提がおかしくないことがわかるでしょう。

      残念ながら、その書籍には「脱力」の演奏方法として "腕を放り投げる感覚。腕の付け根が外れる感覚。" などが書かれています。この文言を読んで、アナタ様のように「脱力 = 支えがある」と解釈する方が、かなり無理な話(というか矛盾している)だと思いますが。。。
      書籍レビュー: http://lppianolife.blogspot.jp/2015/11/1-1.html


      > 支えのない脱力という物理的に有り得ない前提で話を進めてるのらおかしいですよね?(笑)
      このセリフ、「脱力は大事!」と言っている人たちに言ってあげてください。彼らこそが、支えのない脱力という物理的にありえない前提で話を進めている人たちですから。。。
      (彼らは「脱力」の説明でよく、「腕をだらーんとさせなさい」と言っているでしょう?もし「だらーん」という表現が「支えのある脱力」だと感じたら、それはもう「脱力」病末期でしょう…)


      > 存在しない数字
      えっ、もしかしてアナタ様は今、地球にいないということですか?そっちの方がびっくりです。

      それはさておき…残念ながら、それらの数字は存在していますが、実際にこうやって弾いている人はいない(もしいたら指を痛めている)、というのがここでの正しい解釈です。

      ここで言いたいのは「巷でよく言われている「腕を脱力して弾く」というのを言葉通りに実行しようとすると、こうなります。でも、これっておかしいよね。実際は、「脱力」じゃなくて、ちゃんと腕を支えているんだよ。」ということです。

      うーん、上記の記事のような書き方だとわかり難いのかな?


      そもそも論ですが…ここでの「論点」は、「打鍵後に脱力する(= 力を抜く)のはおかしい」ということだけ。そしてまとめとして「打鍵後は、脱力という意味とは逆行して、腕を持ち上げる力(= 支える力)を使わないとダメですよ」と言っているわけです。これに論点のずれがありますでしょうか??腕の「支え」は力を「抜く」ではなく、【適切に】使わないと得られませんからね。

      むしろ、この話の論点が見えなくなっているのは、「脱力 = 支えがある」というおかしな解釈をしているせいかと。。。


      アナタ様のような「脱力」の意味を過大解釈している人たちがいなくなることを願います。

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