特集3: 「字を書く」ことからピアノ練習方法を学ぶ-その1

公開日: 2016年1月20日水曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

ピアノの弾き方や練習の仕方は、性別や年齢、身体の大きさによって異なるため、人それぞれと言われますが…性別や年齢、身体の大きさが違うと言っても、みんな同じ【人間】です。そのため、ピアノの弾き方や練習の仕方は人それぞれと言っても、必ず何か共通点があるはず。

ただ、ピアノの演奏は難しい動作の連続で成り立っているため、そこから共通点を見出すのは非常に難しいうえに、人によって演奏技術のレベルの差が激しく、演奏方法の表現の仕方、内容の理解度が異なります。そこで今回は、皆さんがよくご存じの「字を書く」ことから、ピアノ練習の考え方の共通点を探ってみたいと思います。

ちなみに、先に言っておきますが、誰にでも通用するピアノ練習の考え方、共通点は、決して「脱力」ではありません。というか「脱力」という考え方は、練習に不適切です。「字を書く」という側面から、「脱力」というアドバイスが練習に不適切であることを「脱力」信者でも実感できてしまう方法をご紹介しましょう。

利き手と逆の手で字を書いてみよう

通常、「字を書く」のは利き手なので、利き手においては「字を書く」という動作は完璧ですね。そして、その字を書いている時の【感覚】も、自分の中でしっかりとご理解されてると思います。では、その利き手と同じように、つまり利き手で書いている【感覚】と同じになるように、利き手と逆の手で字を書いてみましょう。

書こうとすると手が力む

恐らく、大半の人が、利き手と逆の手で、利き手と同じように字を書こうとすると、その指、手、腕などにかなりの力が入るはずです。まずはこれを、「脱力」信者のアドバイスである「脱力」という意識で力を抜いてみましょう。

たぶん、「なかなか力が抜けない」、「字がもっとへなへなになる」、「ペンも持てないくらい力を抜かないと力が抜けない」などが発生するでしょう。「脱力」信者ならここで「まだ「脱力」が足りない!」とか「でも、フニャフニャになるまで力は抜かないで!」とか「そして、抜くのは無駄な力・余分な力だ!」とか全くわけのわからないことを言うでしょうね。その考え方で、利き手と逆の手で「字を書く」ことが簡単に出来るのであれば、どうぞ自分でやってみてください。恐らく、その考え方では、ツライ(しかも、字がうまく書けるかどうかわからない)練習方法しか思いつかないでしょう。

さて... なぜ、利き手と逆の手では、思ったように力みが取り除けず、字もうまく書けないのでしょうか。理由は…「指や手、腕の筋力、鍛えが足りない?」それとも「身体が小柄だから?」ぉぃぉぃ、アナタの指や手、腕は、利き手と逆の手だったとしても、字が書けるようになってきた幼稚園生の利き手よりも弱く、小さいんですか??「そうか、重力を利用しないとダメってことだなっ!」ぉぃぉぃ、まさか、字が書けるようになってきた幼稚園生がそんな高度なことを考えているとでも??

その理由は簡単。利き手と逆の手では、思ったように力みが取り除けず、字もうまく書けないのは、今まで字を(ほとんど)書いたことのない利き手と逆の手に、利き手と同じように「字を書く」ことをさせようとしているからです。その利き手の【感覚】を頼りに、利き手と逆の手で字を書こうとしているため…利き手と逆の手にとっては、かなりのオーバーワークになります。これが力みの原因です。

以下、アナタはどうやって自分の利き手で字が書けるようになったのか、を思い出しながら読んでみてください。恐らく今までやってきた字を書くための練習方法と似ていることに気付くでしょう。

なぜオーバーワークで力むのか

オーバーワークによる力みを取り除く方法を考えるために、なぜ力みが発生してしまうのか考えてみましょう。これは、【人間】の動作に関する共通点を見つければ、少しずつ力みの原因が分かってきます。(参考文献『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』

1. 動作に正確性を持たせようとすると力む

例えば、針の穴に糸を通そうとするとき、指先にかなりの力を入れますよね。人は誰しも、動作に正確性を持たせようとするときに力みます。この力は、動作を正確にさせるために【必要な力】となります。そのため、「正確に動作させたい!」と願うのを止めない限り、この力を抜くことはできません。

2. スピードを上げると動作の正確性が落ちる

これも容易に想像できますね。人は誰しも、動作を速くさせようとすると、その分、動作の正確性が落ちます。そのため、動作スピードを上げつつも、正確に動作させようとすると、落ちてしまう正確性を上げるため、上記の#1の理由で力みます。

3. 動作スピードが速い = その部位を動かす神経細胞が多い

では、動作スピードを上げつつも、力むことなく、正確性を増す方法はないのでしょうか。それを攻略する方法がこの#3です。(少なくともピアノの指の動作に関しては)動作スピードが速い人は、その部位を動かす神経細胞の数が多いそうです。車は馬力が大きい方が速く走れる、というのと同じで、その部位を動かす神経細胞の数が多くなれば、動作スピードを速くする際に苦労しなくなります。そうすると必然的に正確性を保つための力みも少なくなる、という流れです。つまり「速く・正確に動けるから力みがなくなる」わけで、決して「力みがなくなれば速く・正確に動ける」わけではありません。

オーバーワークによる力みを取り除く

上記#1,#2を、先ほどの利き手と逆の手で「字を書く」ことに当てはめてみましょう。利き手と同じように【きれい】に字を書こうと意識すると、ペンの運びの正確性を増そうとするため、力みます。これは【きれい】に書こうとしたときに起こってしまう【必要な力】です。そのため、この力を抜くためには、利き手と同じように【きれい】に字を書こうとする意識を止めればOKです。

字を書くスピードも力みに関係します。利き手と同じように【素早く】字を書こうと意識すると、ペンの運びの正確性が落ちるので、字が【きれい】に書けなくなります。落ちてしまう正確性を上げようとすると、力んでしまうんです。この力みを抜くためには、利き手と同じように【素早く】字を書こうとする意識を止めればOKです。

ここまでをまとめると、利き手と逆の手で「字を書く」場合、最初は【字のきれいさを求めず】、【書きやすいスピード】で書けば、オーバーワークによる力みが減ります。つまり、最初は適当なスピードで字を書きつつ「字のとめ、はね、はらい」や「字の大きさ(マスに収めるとか)」を極力無視することで、先ほどのオーバーワークによる力みがなくなるんです。

オーバーワークによる力みを取り除いたら…

オーバーワークによる力みがなくなったことで、その他の理由による腕や指の力みが感じられるようになります。その力みの原因(詳細は、記事「番外編5: 【力み】の発生理由とその対策方法」を参照)を一つ一つ突き止め、解決させれば、利き手と逆の手でも少しずつ字が上手になってくるはずです。

その過程で、字を書く動作をする神経細胞の数が増えてきますので、少しずつ字を書く余裕が出てきます。そしたら、正確性、つまり字の【きれい】さである「字のとめ、はね、はらい」や「字の大きさ(マスに収めるとか)」など、より高度なことを気にしていきましょう。その上達方法の流れについては、次の記事「特集4 「字を書く」ことからピアノ練習方法を学ぶ-その2」でご紹介します。

まとめ

この上記の流れに沿って、我々は、利き手で字が書けるようになってきたはずです。人によって、ニュアンスが違うところもあると思いますが、【人間】の動作に関する事象から見てみれば、この流れ以外で字が書けるようになることはほぼないと思います。つまり、練習方法は人それぞれでも、必ず誰しもが上記の手順は踏んでいるはずです。

最初から【きれい】な字を書くことを目指さないの!?

オーバーワークによる力みを抱えながら【きれい】な字を書くことを目指すのは、ほぼ無理でしょう。まずは字を書く動作が楽になってくるまで(利き手と逆の手で字を書く動作をさせるための神経細胞の数が増えてくるまで)は我慢です。

…というか、オーバーワークによる力みを抱えながら【きれい】な字を書くことを目指す方が断然ツラいです。うまく字が書けない(字を書く動作がままならない)状態で、必死にペンを動かしつつ、完璧な「字のとめ、はね、はらい」、正しい「字の大きさ(マスに収めるとか)」を意識できますか?たぶん上手く書けない自分にイライラするでしょう。下手すると、利き手と逆の手で字を書くのを諦めたくなるかもしれません。もしくは、躍起になって、正確性を増すための力をふんだんに使い…最終的には腱鞘炎とかになってしまうでしょうね。。。

自身の【感覚】はあてにならない

今回は「「脱力」できないから字がきれいに書けない」ではなく、「字がきれいに書けないから「脱力」できない」というお話をしました。今アナタが利き手で字を書いているときに感じている【感覚】は、字がきれいに書けているから感じるわけであって、その【感覚】があるから字がきれいに書けるわけではないんです。これが屁理屈ではないことが、今、自分自身で実感できたと思います。

自身の(今までの)古い【感覚】は、特に新しいことを学ぶときに、このような(字をきれいに書くためには「脱力」が必要だ!などという)邪魔をしてきます。自分の【感覚】は常に新鮮なものを取り入れていくのが良いでしょう。つまり、うまくいったときの【感覚】でさえ、(いや、うまくいったときの【感覚】でこそ)捨てましょう。物事がうまくいったときのその【感覚】は、その時点からすでに古くなっているので、ずっと持っていると今回のように次の新しい学習の邪魔になります。

ピアノに置き換えてみよう~ピアノ練習方法の共通点~

この、利き手と逆の手で「字を書く」という行為からわかった、誰もが持っているであろうピアノ練習の考え方の共通点を簡単にまとめます。恐らく、性別や年齢、身体の大きさによらず、人間であれば誰にでも通用するピアノ練習の流れだと思います。ピアノの練習の仕方に困っている人は、騙されたと思ってこの手順を試してみてください。

  1. あるフレーズが弾けない時は、オーバーワークになっているかも、と考えてみる
  2. オーバーワークによる力みをなくすため、まずは音楽の「正確性」と「スピード」を無視する
  3. 正確性について: 音の強弱、アーティキュレーションなどを無視
  4. スピードについて: 自分の弾ける(弾きやすい)スピードで弾くこと。ここで「ゆっくり弾く」のはダメ*
  5. そのように弾きながら、発生している力みや弾きにくさの原因を分析。一つ一つ解決させていく
  6. ある程度弾けるようになってきたら(指を動かす神経細胞が増えてきたら)、正確性・スピードを上げていく

また、ピアノを弾くときの繊細さや豪快さと、字を書くときの繊細さや豪快さは、ジャンルは違えど、その表現方法は似ていると思いませんか。字を【きれい】に書くことは、筋力や身体の大きさ、そして年齢や性別なんて全く関係ないことは、みなさんも納得されるでしょう。つまり…

  • ピアノの上達も、筋力は関係ない
  • ピアノの上達も、身体の大きさは関係ない
  • ピアノの上達も、歳は関係ない
  • ピアノの上達も、性別は関係ない
ここで、「ピアノを弾くには力、身体の大きさが必要だ」と言う人がいると思いますが、それは【ピアノを弾くには力、身体の大きさが必要だ】と、思っている(感じている)からでしょう。その人の持つ(間違った)イメージや【感覚】が「ピアノを弾くには力、身体の大きさが必要だ」と思わせてしまっているんです。まずは、その考え方を改めましょう。このパターンは、十中八九、自身の身体の使い方を間違えています。筋力がなかろうが、身体が小さかろうが、身体の「コーディネート」さえしっかりしていれば、ピアノは絶対に弾けます。

あるフレーズが弾けない、という問題を抱えているときは「余計な問題は減らして(増やさずに)」、「なぜ弾けないのか」「どうすれば弾けるようになるのか」を一つ一つ探っていけば、誰でも絶対にそのフレーズは弾けるようになります。そして、その考え方によって鍛えられた問題解決能力は、次回、別の問題にぶち当たったときに必ず役に立ちます。つまり、アナタの持つ問題解決能力が鍛えられれば鍛えられるほど、ピアノの上達スピードがぐんぐんと上がるわけです。これは良いサイクルですね。

逆に、「脱力」という考えは、完全に負のサイクルが発生してしまいます(詳細は、記事「番外編2: 「脱力」というワードは危険」を参照)。。。では最後に一つ。ピアノに限らず、「脱力」で解決することなんて何一つありません。どこかでこのフレーズを使った気がしますが、「「脱力」出来るのは、問題が解決した後」です。

では。

P.S. *「ゆっくり弾く」について
「ゆっくり」とした動作というのは、実は人間にはとても難しい動作です。試しに「ゆっくり」歩こうとしてみてください。気を抜くといつものテンポで歩きそうになるはずです。つまり、「ゆっくり弾く」というのは技術的に非常に難しい奏法なんです。そのため、弾きやすいスピードよりも遅く弾こうとすると、それが逆にオーバーワークになります。

そもそも、そのフレーズが弾けない、という大きな問題にぶち当たっているのに、「ゆっくり弾く」などと余計に難しくする(問題をややこしくする)必要性がどこにあるのでしょうか。そんなことをすると、ミスしたときに、何か問題なのかが全く分析できません。そのため、少なくとも、練習したてのころは「ゆっくり弾く」ことはしてはいけません。

P.S.2
オーバーワークによる力みを抱えながら【きれい】な字を書くことはツライ、というお話をしましたが、ピアノも同じです。最初からいきなり「全ての音楽表現」を気にするのはツライんです。それを無理にでもやろうとするから(しかも、技術的に難しい「ゆっくり弾く」という練習も同時に加えてしまうから)、下手くそな自分に嫌気がさしてピアノが嫌いになってしまったり、逆に躍起になって練習しすぎて、最悪、腱鞘炎などのケガをしてしまったりするんです。これからもずっとピアノを楽しみたいのであれば、その考え方だけは絶対に避けましょう。

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